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【火坂雅志氏】ふるさとの「天地人」

 私は新潟市の生まれである。萬代橋からのぞむ新潟湊の景色は、いまも眼にあざやかに焼きついている。
 新潟は、砂丘の砂が黄金でできているとまでうたわれた繁華な湊町だった。交易による富にささえられた町人たちは独立の気風が強く、北国船、のちには北前船を通じて上方文化が流れ込んできた。
  戦国の世、新潟湊をめぐって合戦があった。織田信長と結んで湊を占拠した新発田重家と、上杉景勝、直江兼続主従の戦いである。いくさは5年の長期に及ぶものだったが、最終的には町人を味方につけた上杉方の勝利におわる。直江兼続は伊勢御師の次太夫なる者を神明宮の宮司として送り込み、湊の掌握につとめた。伊勢御師は経済通で、諸国に情報網を張りめぐらしている。民政手腕にすぐれた兼続ならではの、統治政策と言えるだろう。
  また、兼続が16年にわたって治水工事をおこなったと伝えられる中ノ口川(別名、直江川)、兼続の弟でその右腕として活躍した大国実頼の居城天神山城など、「天地人」にまつわる数々の史跡が新潟市内には残されている。

火坂 雅志ひさか まさし

新潟市出身の小説家。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。1988年『花月秘拳行』で作家デビュー。2004年1月から翌年4月まで新潟日報朝刊で『天地人』を連載。2006年に出版した『天地人』で第13回中山義秀文学賞を受賞。同作品は2009年NHK放映の大河ドラマの原作に決定した。新潟市で行われた政令指定都市記念ミュージカル「明和義人」の原作『新潟樽きぬた〜明和義人口伝〜』を2007年に出版。『全宗』をはじめ、『覇商の門』『黒衣の宰相』『壮心の夢』『黄金の華』『虎の城』『沢彦』『軒猿の月』など、数々の意欲作を世に問うている。